麻酔バイトでよくある「麻酔料金のX%」とはいったいどれくらいのバイト代なのか

麻酔バイトでありがちなのが

標榜医8万/日、専門医10万/日、指導医12万/日、定時以降は1.5万/時間
待機料N万/回 + 麻酔料金のX%

みたいなのだが、前者は日勤の予定手術管理で、後者はどちらかというと土日祝のオンコール、つまり緊急手術であることが多い（気がする）。
さて、ここで「麻酔料金のX%」と言われてもどれくらい支払われるかわからないのにどうしてこんなバイトに応募するだろうか。どれくらい支払われるかわからない、というのは、実働がなければそもそも労働がないので対価がないのは当たり前で、仕事があるかどうかがそもそも確率論でわからない、という意味と、実際に働いたとして麻酔料金とはいったいどう決まっていてどれくらいのものなのかがそもそもわかりにくい、という意味があるがここでは後者である。
麻酔バイトに限らず、一般的に日中働いている麻酔科医が、自分の麻酔でどれくらいの利益（と書くと収益になるので厳密には異なる）を生み出しているのか考えるのは労働生産性を考える上で大事だと思うので考える。とはいうがぶっちゃけ自分がこの「麻酔料金のX%」スタイルのバイトをしてバイト代を得たので考えただけだが。

さて、麻酔料金が決まるシステムとして診療報酬があるが、これを書いている時点の最新版の令和4年度では、全身麻酔をした場合の最低料金は60000円である。
（診療報酬は1点10円であるので、6000点=60000円である。以降は加算などの都合で点数表記なので10倍で考えてほしい）
これは、 L008 マスク又は気管内挿管による閉鎖循環式全身麻酔、において、いろいろ小難しい前提条件（患者の状態や術式の都合）を除いていって一番簡素なものになったとき、6000点が設定されている。
ただし、「全身麻酔の実施時間が2時間を超えた場合は、麻酔管理時間加算として、30分又はその端数を増すごとに、次に掲げる点数を所定点数に加算する」とあり、30分ごとに600点が加算される。他の条件でも10%の切り捨て分が30分ごとに加算される。
ここで、30分ごとに加算、とは、120分までは6000点で、121-150分までが6000+600点で、151-180分までが6000+600x2点で、というように、30分ごとのブロックを1分でも超えればよいが、それ以降は傾斜加算はされない。なので、30分単位で1分でも超過するように（ここで記載が途切れている

これが麻酔を行った時間に単純に加算される料金だが、これに追加で割増料金となるのか

重症加算

麻酔を行うのにかなり支障がある重症患者、というのが定義されていて、これがあると例えば上記の6000点が8300点になる。他の場合でも概ね1.3-1.4倍くらいの加算がつく。
緊急であればショック、呼吸不全、すでに挿管されて人工呼吸状態であるかどうか。抗凝固療法をされている患者なら凝固異常、過去に心エコーのデータがある患者なら弁閉鎖不全などはチェックしておいたほうがよい。重症加算は目を付けられやすいので切られやすいが、逆に検査数値上、きちんと定義されているので記載しておけばたぶん大丈夫である。

時間外・深夜・休日加算

患者の手術室入室が時間外であれば1.4倍、22時以降朝5時までもしくは日曜・祝日なら深夜・休日加算として1.8倍になる。

新生児・乳幼児加算

生後28日までの未熟児・新生児なら2倍、1歳までの乳幼児なら1.5倍、3歳までの幼児なら1.2倍。

というわけで仮想麻酔症例を定時すると

若年男性、虫垂炎。土曜日の昼過ぎに腹腔鏡下虫垂切除術

普通に麻酔導入をして、気腹（腹腔鏡）時間が30分、手術自体も60分以下で終わり、麻酔時間は90分くらいだったとする。
腹腔鏡で6610点、基本料金2時間以内に収まっているので、適当にTAPブロックでもしても45点にしかならない。土曜日時間外加算で1.4倍としても9000点くらい。
よって全額なら90000円となる。

75歳男性。下部消化管穿孔。日曜夕方より開腹汎発性腹膜炎手術および人工肛門造設術

ショックで重症加算、手術自体は3時間半、麻酔時間は2:45くらいとする。
基本料金6000点が重症加算で8300点、2時間の基本料金を45分はみ出したので30分単位で600点を2回分加算する。休日加算で1.8倍されて17100点となる。
適当に理由をつけて重症の神経ブロック加算や、CVを挿入したりすると手技料がつくかもしれない。