医師国家試験より
97I8
32歳の女性。遺伝相談のために来院した父が常染色体優性遺伝疾患に罹患している。
この疾患の浸透率(penetrance)は50%。近親婚はなく、本人は発症していない。
家系図を次に示す。第1子が発症する確率はどれか。
常染色体優性遺伝疾患とは、普通ヒトには染色体が父親由来と母親由来の2本あって、そのうち少なくとも1本に遺伝素因があれば病気になる疾患のことで、
浸透率(penetrance)とは、じゃあその遺伝素因があれば100%その疾患になるの?というとそうでもなく、発症しないままのことがあり、その発症確率のこと。
ベイズ的には、「相談者が発症していない」という情報がカギ。ちなみに相談者は家系図の3番の人。
この手の問題は条件付き確率で考えるのが重要。いま、病気であることを、遺伝素因を持っていること、すなわり常染色体優性遺伝のアレルを持っていることを
とする。
設問の条件は、「相談者が発症していない」ということで、問題の「第1子が発症する確率」は、
大親(1)のアレルが親(3)に遺伝して親(3)がアレルを持っていて、なおかつそれが子(5)に遺伝して、なおかつ発症しなければならない
とならないと発症しない。
ここで大親(1)から親(3)にアレルが伝わらなかったから親(3)が発症していないのか、それとも大親(1)から親(3)に遺伝したけれども浸透率のせいで発症していないか、そこが問題だ。
ベイズ的に真面目に解くと、親(3)について、病気が発症していないことがわかっていて、それで病気になるアレルを有する条件付き確率は、浸透率を
とすると
(大親(1)からアレルが遺伝して、かつ発症しなかった)/(発症しないのは、アレルが遺伝して発症した場合の余事象)となる。
これが親(3)がアレルを持つ確率である。ここから、子(5)にアレルが遺伝した場合に、確率で発症するから、
であるから
となる。
R的シミュレーションはこちら。
library(kinship) id <- 1:5 Mother <- c(0, 0, 2, 0, 3) Father <- c(0, 0, 1, 0, 4) Sex <- c(1, 2, 2, 1, 3) affected <- c(2, 1, 1, 1, 1) ped <- pedigree(id=id, dadid=Father, momid=Mother, sex=Sex, affected=affected) plot(ped)
niter <- 100000 p1 <- c(0.5, 0.5) # 遺伝確率。遺伝する vs 遺伝しない p2 <- c(0.5, 0.5) # 浸透率。発症する vs 発症しない res <- matrix(0, niter, 4) colnames(res) <- c("F1allele", "F1phenotype", "F2allele", "F2phenotype") res <- as.data.frame(res) res$F1allele <- sample(1:0, size=niter, prob=p1, replace=TRUE) res$F1phenotype <- unlist(mapply(function(x) sample(c(res$F1allele[x], 0), size=1, prob=p2), seq(niter))) res$F2allele <- unlist(mapply(function(x) sample(c(res$F1allele[x], 0), size=1, prob=p1), seq(niter))) res$F2phenotype <- unlist(mapply(function(x) sample(c(res$F2allele[x], 0), size=1, prob=p2), seq(niter)))
# 親(3)が発症していない、という状況だけを考えればよい。 colMeans(subset(res, F1phenotype == 0))
F1allele F1phenotype F2allele F2phenotype 0.33334223 0.00000000 0.16767906 0.08432014