結論から言うと、0.うんぬん%以内の増加は40-50歳代の年齢層であるようだが、それよりも80歳以上の高齢者での死亡率増加が大きく、かつ感染者数が増えており重症のままベッドを占拠しておりながらもすぐに死亡してベッドを空ける、というわけではないので、医療逼迫感から「若年の重症化が~」というのが広まっている、のではないかと思う(素人の感想レベル
この1-2ヶ月くらいでイギリス型変異株が蔓延し、インド型の変異株も蔓延しつつあるので、よくTVやネットで耳にするのが
「40(20代も?)から50代までの若くて、しかも基礎疾患のない人が重症化しており、変異株で重症化リスクが増加しているおそれがある」
という言説である。
大阪で勤務している人のインタビューや市長がそんなことを言っているのでそうなのかもしれないが、少なくとも(大阪ではない場末の)地方勤務の自分の感触では、重症化しているのは高齢者もしくは肥満、糖尿病などの高リスク50代以上である。
変異株は「若い方が重症化しやすい」 小池都知事、若者の重症化や後遺症に警鐘 | ENCOUNT
こんな記事を見かけたが、記事いわく
従来型より感染力が高く、都内で感染が置き換わりつつある変異株「N501Y」について、小池知事は「若い方が重症化しやすい。都の感染者は20代~30代が半数以上を占めており、重傷者数も20代~50代で倍増している。ECMO(人工心肺装置)は都内に7台あるが、現在その7台すべてが60代以下の方に使われている。だからこそ若い方にも注意していただきたい」と警戒を呼び掛けた。
確かにこの7人はecmonetの東京都でのECMO人数と一致している。
ではこのECMO 7人が全員若年だから若年の重症度化率が高まっているかというと、そもそもECMOを70歳以上の高齢者にしたところで、費用対効果として意味があるのかどうか、というのはそもそも新型肺炎が大流行する直前の2020年2月くらいで集中治療をする人たちにはぼんやり頭のなかにはあって、某意識高い系救急病院においては「65歳以上のVVECMO導入は見送る」なんて書いたマニュアルが裏では流れていた。
ecmonetの「COVID-19 ECMO症例(関西地方)の年齢変化」の図では
暫定的なデータですが、統計学的にも第四波では関西地区においてECMO実施症例の若年化が目立っております。全国的にはこの傾向はみられないので変異株の影響が強く疑われます。感染者も20才台30才台が多いとの報道もありますのでその影響も考えられます。いずれにしろ関西から全国にこの傾向が広がっていくことが懸念されます。2021/4/21
これはecmonetの関西におけるECMO年齢層の解析において、1-3波で103人平均67歳だったのが、4波で22人平均53歳になっていることを鑑みるに、VVECMOを行われる件数が増えたことと、感染者数の増加に伴って人工呼吸患者も増えて、それにより潜在的にVVECMOに移行しうる患者群が増えたので、高齢者へのVVECMOの差し控えが(裏では)行われているものと思われる。
つまりは単純に感染者が増えて確率的に40-50代の(若年と言われる)人でもECMOになる人が出てきたのでECMOが行われているだけであって、若年の重症化率がどうとかはあまり関係がないように思う。しかしながら高齢者へのECMOがなんとなくwithdrawal な風潮になっていそう(要検証)なのはそれはそれで残念ではあるが。
個人の感想を述べていてもエビデンスがないので、データから考えてみる。
週あたりの死亡者数は厚生労働省発表データおよび東洋経済のコロナページから取得できる。
GitHub - kaz-ogiwara/covid19: 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の国内における状況を厚生労働省の報道発表資料からビジュアルにまとめた。
国内の発生状況など|厚生労働省
新型コロナウイルス感染症の国内発生動向:2021年5月5日18時時点
感染者数の推移はNHKからデータが取得できる。
新型コロナウイルス 都道府県別の感染者数・感染者マップ|NHK特設サイト
厚生労働省のデータは1周間ごとくらいに重症者、死亡者数を年齢階級ごとにまとめているので、これを前処理して使用する。
重症度の定義が(真面目に下調べしてないから)曖昧であり、かつ一時欠損しているので、厳密にはECMOに依存している患者数ではないが、死亡数のデータはさすがに間違えないし欠損なく存在しているので、死亡数を扱うことである時点で死亡率が増減しているかどうかを検討する。
モデルとして死亡率 を推定する。年齢区分、集計週において
・年齢区分が大きくなるほど死亡率が増加する:
・週ごとの変化は2階差分モデル:
として、 から死亡数は感染者数から二項分布で発生するとするが、データは検査陽性になった時点でのカウントで、そこから酸素療法を要したり挿管になったりするのはだいたい1~2週間くらいの時差があり、挿管からECMOになったりするのはまた時差があるが、挿管からいきなりECMOだったり10日くらい挿管で粘ったりするので、このあたりは西浦先生法を使ったりして確率分布を使ったモデリングが必要かもしれないが、面倒くさいので「感染した週から2週間後に死亡する」とする。つまり、 での感染者は での死亡数と関連する、とすると
となる。
(もっとまじめにモデリングするなら、死亡確率のとある確率分布を仮定して での死亡数を何週か先まで足し合わせてやるのがいいと思う。
ここからスクリプトを流用してrstanで記述する。
mikuhatsune.hatenadiary.com
結果としては、70代および80代以上が高い死亡率を示し、25%近くに及ぶ瞬間もある。
(ひとつのグラフに2つの軸を載せるのはあんまり好ましくないが)感染者数のピークに遅れること3-4週くらいで死亡率が急増している。
それに比べて20~50歳代はというと、グラフが潰れていて見えない。つまりそんなに死亡率は高くない。
変異株が日本に入ってきた瞬間もしくは、「若年の重症化率が高い」と言われ始めたのがいつの瞬間なのかあやふやなので、死亡率が低い2020年11月11日の週を比較として、2021年以降の死亡率 の増減を検討した。さすがに2021年になればイギリス株がどうたらこうたら言っていたような気がするので適当である。
差分をとったのは若年の死亡率はもともとものすごく低い値で、推定の都合でばらついた値が出たときに比が100倍(0.0001が0.01)となるとこれは誇張になりすぎる、と思ったので差分にしている。
2021年2月17日の週で死亡率の増加が最大となっている。70代においては10%、80代以上においては20%近く死亡率が増加している。60代でも5%近く増加している。
50代以下でも増加はしていることはしているが、0以上なだけであって0...% の増加である。それでも、感染者数が膨大に増えれば数としては影響が大きく見えるだろう。1000人/週が一桁増えて10000人/週になったとすれば、0.1%の増加であっても10人死亡するのでインパクトは大きく見える。
2回目の緊急事態宣言で感染者数はすぐさま減少しているが、重症化や死亡に関しては、すでに感染して現在治療中の人の転帰によるので、これは4週くらいの時差がある。緊急事態宣言をして1か月で解除します、といっても、1か月後の時点で重症化率や死亡数(率)を指標にしていては、このときに数が最大化されているので医療現場の実感としては一番しんどいときだろう。
もうちょっと真面目にモデルを考えたり、Interrupted time series analysis を使ったりしたほうがいいのではないかとか考えたがrstanがそれなりに動いたのでよしとする。